12人が本棚に入れています
本棚に追加
〝いつかまた、君に会えますように〟
ふと手を入れたポケットの中には、そう綴られた紙切れが押し込められていた。
いつの間に眠ってしまったのだろう。相当疲れが溜まっていたらしく、寝てしまった時の記憶が無かった。
まだ覚醒していない頭を振り、寝癖の髪を撫でる。そうだ。昨夜はバイトが深夜にまで及んでしまい、ひどく体に堪えていたのだ。
授業中に眠ってしまうなんて、なんと情けないことだろう。
自己嫌悪に陥りながら、ぼんやりと講義室を見渡した。
時刻は十七時を過ぎていた。授業はとうに終わり、先程まで満席だったこのホールはすっかりがらんどうになっている。
せめて誰か起こしてくれればよかったのに。
そんなことを考えながら、この講義に知り合いなどいないことを思い出す。
いや、この講義だけじゃない。うちの大学に……いや。この世界に、俺と親しい者など一人もいない。
誰も俺のことなんか見ていない。そんなこと、自分が一番分かっているのに。
「君。もう閉めるよ」
声を掛けられ、ようやく入り口付近に誰かが立っているのに気付いた。
先程の講義で登壇していた教授だ。指先でこの部屋の鍵らしきものを揺らしながら、じっとこちらを見つめている。
バツが悪くなり、慌てて立ち上がった。
こんなんじゃ講義中に寝ていたことがバレバレだ。肩に掛かっていたコートに素早く袖を通し、鞄を掴むと、そそくさと講義室を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!