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俺は…馬鹿だった…
「何だこれは!?」
「何だって お刺身ですよ」
「そんなもん 見ればわかる」
「じゃあ 何ですか?」
「買ってきた刺身を皿に盛り付けただけじゃないか!」
ガシャーン!!!
「隠し包丁を入れるだの 昆布でしめるだの漬けにするだの 一手間加える事もできないのか!!!」
「………」
「何だって!?」
「何も言ってません」
「たく 手抜きばっかりしやがって」
今 思えば…俺が妻の料理に文句をつけたのは
これで何回目だったのだろう…。
思い出せば あの日は 朝から体調が悪いと言っていた様な気がする…。
俺は本当に…馬鹿だった…。
数日後…。
俺は 自分が言った事をすっかり忘れていた。
「今日は ちゃんと隠し包丁しましたから」
「隠し包丁?」
「えぇ」
俺は皿に盛られた刺身を口にした…
「ん?」
口の中に違和感を感じ 俺は指で その違和感を引っ張った…
「ん゛ー!!!???」
そして 思い出した
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
隠し包丁…
「う゛ー う゛ー」
どうやって入れたのだろう…
俺が違和感を感じて 引っ張った物は
カッターナイフの芯の様な物だった…
その鋭利なものは…
俺の口から出る時に 舌の先と下唇を裂いた。
「あなた。隠し包丁ってどうゆぅ事なのかわかって言ってました?」
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
妻は俺の携帯を取り上げて そう言った。
「野菜炒めは手抜きだ 焼き魚は手抜きだ あれもこれも手抜きだ 手抜きだ 散々言ってくれましたね」
「はぁ はぁ」
どれもこれも 俺が忘れていた事はがり…
口の中から止めどなく 血が流れている俺を見ながら
妻は俺に 淡々と話し続けた…
「口だけで何にもやらないくせに」
床で苦しむ俺を 妻は何とも言えない表情で見ていた
「凝った料理を作って あなたにその味がわかりますか?」
救いを求めて伸ばす俺の手を妻は弾いた
「私が救いの手を伸ばした時 あなたがその手を掴んでくれた事がありますか?」
俺はひたすら土下座をした。
「遅いんですよ」
そう言い放った妻が恐ろしくて 俺は逃げた。
そして俺は 家を飛び出した時
キーーーーーーーーー ドンッ!!!
車に跳ねられて 死んだ…。
あの世では妻に謝れるだろうか…
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