幼少期

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 友達と手を泥んこにして遊ぶ。それは夏場になると母を困らせる要因の一つで、半袖短パンで田んぼを駆け巡ってはカエルを捕まえてみたり、水深が浅いのをいいことに仰向けで飛び込んだりして、手だけじゃなく衣服も完全に汚してしまう。そうやって帰ると母は眉を八の字にして「早くシャワー浴びてきなさい」と言いながら、それでもその瞳の奥には溢れんばかりの母性を浮かばせる。  シャワーを浴びて気持ち良くなると、見越した睡魔はすぐに僕を襲おうとしてくる。母はその瞬間、完璧なタイミングで声を掛けてくる。 「こら、寝たらダメよ。一緒に買い物手伝って」   最寄りのスーパーに母と一緒に向かう。家からはかなり近い位置にあるので、いつも母親と手を繋いで歩いて向かう。店内に入るとまず野菜のコーナーがあり、母はそこで今晩の献立を考えながら長居する。それを分かっている僕はすぐさまお菓子売り場に行き、今日は何を強請ろうかと思案する。いつもそうやっているから母も慣れたもので、僕が行方を晦ます心配がないのを知っている。何かを強請り終えるまで、大抵お菓子売り場で興味津々に商品を眺めているからだ。例のごとく商品を選んでいると、ふと二つある出入り口の入ってきたのと反対側の扉付近でピエロのような格好をしたおじさんが風船をたくさん持って配っているのに気づく。いつもはこんなイベントはないので、異様に気になって近づいてみると、どうやら併設されているパン屋で五個以上パンを買った人にプレゼントしているようだ。これで決まり。食玩なんか買うより母は快くオーケーしてくれるだろう。家族で食べる分が欲しいといえばいいのだ。魅惑の赤色、あの風船が欲しい。  母親はその日に限って定位置にいない僕のことを心配していたようだが、ちょうど様々なコーナーを回った最終地点にそのパン屋さんはあるので、お菓子売り場を通った後すぐに気が付いたようだ。僕が満面の笑みを浮かべ手を振ると、母は安堵の表情を浮かべ、かなりの商品を含んだショッピングカートを押して駆け付けた。 「もう、どこに行ったか心配したでしょう」 「ごめん、ママ。それより僕ね、パンが欲しい。五個以上買ったら風船もらえるんだって。風船欲しいから買ったらダメ?」 「もう、しょうがないわね。今日はそれでいいの?」 「うん、ありがと!」  もちろん母は快く承諾してくれ、僕は真っ赤な風船を手に入れた。
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