少年期

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 中学二年生の春は部活に明け暮れていた。小学四年生の頃から始めた野球はどうやら性に合っていたらしく、中学に入ってからは一年からレギュラーを勝ち取っていた。そのせいで同級生やベンチからこぼれるような先輩なんかには白い目で見られるが、そんなのは相手にしていない。俺の頭の中にはただ、県大会で結果を残し全国に行くことしかないのだ。  今日も学校終わりに練習。もう大会も近いので、背番号があるメンバーを中心にした練習内容だ。ピッチャーである俺はチームの練習から少し外れ、ブルペンで投げ込みをする。これは試合前の調整で、ここに入っているピッチャーが実際に試合に出ることになる。今のところエースは俺で決まりだろう。今回も直々に監督から変化球の改良を命じられ、肩や肘に極端なダメージのいかぬように投げ込む。とは言ってもやはり毎度無理をして投げ込んでしまう。キャッチャーに止められなかったら日が暮れるまでブルペンの土を蹴り上げていただろう。アイシングをしながらベンチに座っている俺に、誰もがイメージするキャッチャーのがたいそのままの男が話しかけてくる。 「おい、投げすぎだぞお前。試合は来週だ。期待のエースは無理しちゃいけないよ」  この島村という男は、巨大な体躯とその丸々とした顔に目じりの垂れた優しい目をしているから、誰からも愛される愛嬌を持っている。それに、実際に優しい。ピッチャーからすれば肉体的にも精神的にもこれ以上にないくらい素晴らしいキャッチャーだ。 「あぁ、すまんな。変化球を詰めて完成させたくてな。まぁ、無理はしてねぇよ」 「それならいいけど。今日帰りになにか食べに行こうぜ」 「お前はいつも絶妙なタイミングで最高な誘いをしてくるな」  チーム全体の練習が終わると、主にレギュラーメンバーで一緒に話をしながら帰ることになった。その内の何人かは俺、島村と共にラーメン屋に行くことになった。この面々で帰るときは、実はほとんど真面目な話をしていない。何組のあの子が可愛いだとか、新作のゲームがどうとか、そんな話が常だ。そしてなぜか野球部の精鋭メンバーたちは石蹴りをしながら帰る。落とした人はジュースを一本奢るなどの罰ゲームがあるので、みんなして少しだけ本気だ。今日も石蹴りをしながら帰る。石を見つけたのは俺で、グラウンドを整備している時に校庭の端で見つけた物だ。丸っこくて、いつもより大きい石。
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