とある農民の場合

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見事な手際で気絶した側近が医務室へ運ばれて行き、代わりに国王の護衛として静かに立っていた騎士が口を開く。 「――話には聞いていたが、流石だな」 誰にどういう話聞いてんだ、お前は。 チラリと国王に目をやれば、国王はするりと目を逸らした。 目の逸らし方が手慣れてんなおい。 騎士はそんな俺と国王のやり取りには悶着せず、何だか楽しげに値段交渉に入った。 少し足しては尋ね、更に足しては尋ね、ノーを繰り返す俺に怒ることも呆れることもなく金額を変更していく。 途中からまるで賭け事でベットしているみたいな気分になってきた。 最初は何食わぬ顔で金額を聞いていた国王の顔色がどんどん悪くなっていくが、無視して2人で盛り上がる。 「……、……なら、それに掛ける5プラス11でどうだ!」 「ハッ!その程度か?もう一言!」 「キリよくプラス15!」 「よし乗った!」 あー、まあ。 勢いと雰囲気に流された自覚は、多少ある。 ただ本気でこれだけ出すと言うなら、流石に引き受けてやってもいいだろう、と思ったのも本当だ。 なので、俺は何だか遠い目をしている国王に向き直って、ニヤリと笑って嘯いた。 「イチ農民として、国王陛下の命令じゃあ、断れねぇよな、仕方ねェ。  ――――その依頼、引き受けた」 で、何処の腕利きをヤれって? 引き受けたからにはさっさと片付けて畑耕しに帰るから、簡潔に要点を述べろ。 あ? 値下げ? つべこべ言ってるとやっぱり止めて帰んぞ、オウサマ。
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