とある兵士の場合

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俺は今、人生で一番の危機に直面している。 ああ故郷の母さん、姉弟たち、ついでに父さん。 俺は今日で死ぬかもしれない。 多分死んだら遺族に見舞金払われるから、それで適当に葬式でも上げて欲しい。 そんなことを脳内で考えながら、目の前のソレに向けて毅然とした声を、声高に…… ……声高に。 いやいやいやいやいや、無理だから。 「あの、その、お、王様の、ご命令でしてぇ……!」 超震えてみっともない声が出た。 いや、いや。 仕方ないと思う。 コレは仕方ないと思う。 むしろ俺、よく言い切った。 ただとてもとても目を合わせては居られなくて、忙しなく泳がせながら目をそらす。 目の前の。 鉄製の鍬を軽々と肩に担ぎ、堂々と俺を睨みながら仁王立ちする、凶悪な人相の―――― 農民から。 誰だよ農民1人呼んで来るだけの簡単な仕事とか言ったヤツ……あ、俺か。 思えば俺に命令して来た上司、何気に目線泳いでた。 妙に愛想も良かった。 何でそこで気付かないかなぁ俺!! て言うか、農民? 農民って、農民? いや嘘だろこの人絶対アサシンとか闇ギルド系だよ。 間違いなく何人かヤってるって。 「ああ?オウサマの命令だ?知るかそんなもん」 えー? あれ農民って土地の権利云々で権力者には逆らえないよね? そういう階層だよね? 王様、この国の頂点なんですけど。 どこの土地でもどうにでも出来ちゃう人なんですけど!? 「いえ、その、あの……そうもいかなくてですね?」 「あのな。俺は今、畑耕してんだよ。見りゃわかんだろ。忙しいんだよ」 「いえ、あの、忙しくても普通はですね、王命を優先するものでして」 「イヤだね。生きる上で食糧確保より優先するモンなんてあるわけねェだろ」 うんまぁそれはそうかもだけど。 それを言ったら俺はこの人連れていかないと労働成果なしで対価がもらえなくて食糧確保出来なくなるわけだけども。 っていや、そう言う問題じゃないよね!? 「じゃあどういう問題なんだよ百面相」 「変なあだ名付けられた!?」 「青くなったと思えば白くなって、元に戻ったと思ったら口パクしたり頭振ったり愕然としたり、百面相で異議があんのか」 ……あれ可笑しいな、反論出来ない。 すげー心当たりあるわ。
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