とある農民の場合

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俺は農民だ。 祖父も祖母も父も母も農民だったので、そのまま農民になった。 子供の頃からこの仕事が気に入っている俺は、他の職業を選ぶ気もなかった。 農民は、畑を耕して野菜を育てるのが生業だ。 まぁ税とか不作とか蝗害とか理不尽なことも多々あるが、普通に仕事をしているだけで自分の食い扶持を確保しつつ、他人の生命維持にも貢献出来ると言う、成果に間違いようがない辺りが気に入っている。 大事だろう、食糧。 兵士のヤツがあんまりにも煩いので、王城までやってきた。 相変わらず無駄にデカい建物だ。 広さはまぁ、政を回すヤツらの人数を考えれば仕方ないにしても、こんなに天井高くする意味は何だ。 あと装飾もここまで要らないと思う。 まぁ、どこにも頭をぶつける心配がない、ってのは悪くないが。 呼びつけた割には手続きだ何だでたらい回され、国王と謁見出来たのは来てから暫く時間が経ってからになった。 チッ。 あの兵士、俺がいない間ちゃんと畑耕してんだろうな? 俺がやるより遅いのは仕方ないとしても、仕事が粗かったらシバく。 そう、俺は今、1人で王様の前に立っている。 ……正確には跪いている。 兵士はどうしても畑を手伝いたいと言って来たため置いてきた。 「よくぞ参った。面をあげよ」 ああ、あの兵士の仕事ぶりが気になって仕方ない。 本当に大丈夫なんだろうな。 「……帰っていいか?」 「えー、今来たのに?」 直答を許す、だとか何とか、謁見時のお約束的なやり取りを終えてそう言えば、国王は緩くそんなことを言った。 「お約束」が終われば「王様タイム」も終了するのもまぁ、いつもの事だ。 「せっかく来たんだから、泊まっていけばいいのに。  部屋用意させるよ?」 「アンタ今言ったこと聞いてたか?  俺は早く帰りてェ」 俺と国王がこうして話すのは、何度目になるだろうか。 農民は農閑期は暇なので、そん時に呼ばれれば暇つぶしにココへ来て、小遣い稼ぎに勤しんでいる。 切っ掛けは確か、前回の戦争の時だから――もう10年くらい前になるのか。 今俺の畑を耕してる職業兵士が居ても、戦争となれば農民が徴兵されるのは良くあることだ。 まぁこの国王は見た目や言動に似合わず意外と有能なので、この国は戦争が少ないが。
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