真っ赤な白鳥

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 ……なるほどな。俺はこの隣の綺麗な女を見遣って思う。さっきからむせ返るように匂っているのは、血の匂い。  ワンピースは白だったのか。愛する男の溢れる血を全身にまとって、そして女はこのビルにのぼって……。 「これが、あんたが死ぬ理由か?」  訊いた俺の手から手紙を奪うと、女はまたにっこりと笑った。艶っぽくていやらしい、綺麗な笑顔だ。 「そうよ。だから私は死ぬの。最後に仲間に会えて良かった。あなたは、頑張って」  言い終わらないうちに女は走る。柵を乗り越えその向こうに飛ぶ。迷いなく飛び立つ、白鳥みたいだ……赤い、真っ赤な白鳥。  ズシャっという音がして、往来に悲鳴が広がる。おいおい、これじゃ俺が殺したみたいじゃないか。そりゃ二人ほど殺してきたが、見ず知らずの売春婦を殺した覚えは、俺にはないぜ。  そろそろ発見されるかな。バイト先の弁護士と浮気していた、俺の可愛い可愛い彼女。二人揃って仲良く血みどろだ。見つかる前に、事務所に戻って俺も一筆書いてこよう。  俺が今から死ぬ理由。  そしてあの真っ赤な白鳥のように、躊躇なく夏の空へ飛び立つんだ。
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