99人が本棚に入れています
本棚に追加
シャインは艦長室に戻ると部屋の奥のクローゼットへ手を伸ばした。
「忙しそうね」
背後から響いた声にシャインは振り返った。
艦長室の扉の前でロワールが立っていた。腰まで伸びた緩やかな紅髪を揺らし、透き通った水色の瞳が硝子のようにシャインの顔を映している。
正直息が止まりそうだった。
「――驚いた。部屋に入る時はノックを頼むよ……」
「えー」
ロワールは白い頬を赤く上気させ唇を尖らせた。
「別にいいじゃない。私は出てきたいと思った時しか姿を見せないし」
「……」
それは確かにロワールの言う通りだ。
このロワールハイネス号の船鐘に宿る彼女は、いわば『船の魂』といえる存在だ。
よって人間の姿でシャインの前に現れても、血肉を備えた『実体』があるわけではない。
「そうよ。ノックなんかしようと思っても――見て」
ロワールは右手を艦長室の扉へ伸ばした。それは扉をあっさりと突き抜けた。
「ごめん。俺が悪かった」
ロワールはノックをしようとしてもできないのだ。
「わかってくれたのならいいわ」
両手を腰に当ててどうだと言わんばかりにロワールが頷く。
でも。
シャインはロワールを凝視した。
「おかしいな」
「えっ?」
最初のコメントを投稿しよう!