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何を躊躇している。
これをジャーヴィスに渡してストームの船に乗るのだ。
『俺は逃げない』
そう――ストームと約束したのだから。
そしてそれこそが、誰も傷つかなくて済む最良の方法だ。
「後の事は頼む」
「……」
ずっとシャインを睨み付けていたジャーヴィスが顔を俯かせた。
よくよく見ないと気付かないが、その唇はぐっと引き締められ小刻みに震えている。
シャインは黙ったまま、ジャーヴィスの左手に指輪を載せようとした。
しかし、ジャーヴィスはその手をしっかりと握りしめている。
「ジャーヴィス副長、これじゃあ指輪が渡せな……」
肺の中の空気が一度に抜けてしまったように、シャインは息苦しさを感じた。
正確には、全身を突き抜ける予想外の痛みのせいで、息ができなくなった。
膝に力が入らない。
前のめりに倒れる体を支えようと、シャインはジャーヴィスの肩を掴んだ。
ジャーヴィスの右の拳が、シャインの鳩尾を深く突いていた。
『駄目だ、ジャーヴィス。俺は……あの人と同じになってしまう。それだけは……嫌だ……』
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