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「船が……動いている?」
先程までストームの船から渡されていた渡り板が無くなっている。
信じられないことだが、ロワール号は船首に二つも錨を下ろしているにもかかわらず、勝手に後退をしているのだ。
それで渡り板が落ちてしまったのだ。
ジャーヴィスは自分と同じように、反対側の右舷の船縁で体を支えているストームの姿を見つけた。そして船首に見慣れない水色の淡い光を目にした。
その光の中には、ゆるいウエーブのかかった長い黄昏色の髪を揺らし、花びらのような白い服をまとった少女が舞うように立っていた。
紛れもない、船の精霊(レイディ)、ロワールだ。
その横顔は人外の者が備える華やかさと、力強さに溢れている。
ジャーヴィスはしばし、その儚くも高貴な彼女の姿に目を奪われていた。
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