96人が本棚に入れています
本棚に追加
/398ページ
「ストーム? そんなんじゃないわよ」
艶やかな女性の声がした。シャインは辺りを見回したが人の気配はない。
「こっち、こっちよ」
それは貨物船の方から聞こえてくる。声に誘われるように船首の方へ近づくと、一人の女性が手すりから身を乗り出して、手招きをしていた。
長い茶色の巻き毛が、露わな両肩の上にこぼれ、ややつり目がちの黒い瞳が、やさしげな光をたたえてこちらを見つめている。肌は色白ではないが、きめが細かくつやつやしていた。年頃は三十代前半ぐらい。顔立ちは上品でどことなく高貴な感じがする。シンプルなクリーム色のドレスに、緋色のストールを羽織っている。彼女は、この商船の船長の奥方だろうか。
いや、違う。
この雰囲気はよく知っている――。
彼女の姿を通してその背後にあるマストが透けて見える。
最初のコメントを投稿しよう!