【後日談】奇跡の赤(終)

21/30
前へ
/398ページ
次へ
「どうして……?」 「エルザリーナのワインは『奇跡の赤』ともいわれます。見ればわかりますが、血のように赤く、けれどどこまでも透き通った美しい色をしています。彼女は獄中で手記を綴っていました。それを読んでわかったことですが、彼女はこの色を出すために、葡萄の他にアマルドの実を入れてワインを作っていたのです」 「何だって? じゃあ……」  ジャーヴィスは静かにうなずいた。 「そうです。エルザリーナの作るワインには、最初からアマルドの実が使われていたのです。この実は唯一アメリゴベスに自生する植物で、血のように赤い。エルザリーナは故郷を愛するが故に、この色にこだわってワインを作っていたそうです」 「でも。アマルドの実には毒があるんだろう?」 「ええ。だからエルザリーナは弟子のジャムスにワインの製作過程を見せなかったんです。誤解を招く事を怖れたんでしょうね。  けれど彼女は知っていました。アマルドの実は葡萄と発酵させることで、生じたアルコールがその毒性を飛ばしてしまうことを。年数が経つにつれて毒は薄まり、最終的には消えてしまう事を」
/398ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加