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「ありがとうございます。エルザリーナの『奇跡の赤』をこの目でみられることができるとは思ってもみませんでした。それでは、ちょっとグラスをとって参ります」
ジャーヴィスはそそくさと艦長室を退出し、数分と経たないうちに戻ってきた。右手に携えた銀の盆には小振りなグラスが二つ載っている。
そしてエルザリーナのワインの瓶を手にとり、それを感慨深げに眺めた後、注意してコルクを抜いた。
「じゃ、注ぎますよ」
慣れた手付きでジャーヴィスがグラスにワインを注いだ。
ランプの光が『奇跡の赤』と評されつつも、汚名を被せられ不遇の死を遂げたエルザリーナの遺作を優しく照らし出す。
血のように純粋な赤色。その液体は硝子のようにどこまでも透き通り、立ち上る薫りは採れたての葡萄のようで、目眩がするほどの瑞々しさに溢れている。
グラスの中で真紅のワインが踊る。
そのさざめく光にシャインは暫し目を奪われた。
これほど心が揺さぶられるような赤色を見たことがあるだろうか。
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