ライアーゲーム

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 男が視線をあげて、品定めするように私をじろじろ見る。そんなの慣れてるから、私は名刺を渡して軽く挨拶。でも男は名乗らなかった。 「僕……人の怒った顔を見るのが好きなんだよね。怒った時って本音が顔にでるじゃない? 生身の人間って感じで面白い。さっきの子……かなり怒ってたはずなのに、馬鹿みたいにへらへらしてて」  つまらなさそうに呟いた。呆れるくらい悪趣味で、思わず苦笑いが浮ぶ。 「ああ……いいね、そういう笑顔。ちょっと引きつってて。そっちの方が面白いよ」  変態か。本当にたちの悪い客だ。でもこれも仕事だし。軽く会話をしながら観察してたら、何度か胸ポケットに手を伸ばしかけて辞めてた。  だからそっと灰皿を差し出す。 「お煙草どうぞ」  一瞬目を瞬かせ男は苦笑した。やっと笑った。 「よくわかったね。禁煙してたんだけど……まあ、1本くらいね。ユイちゃん……だっけ? 君みたいな頭の良い子は好きだよ」  煙草を口に咥えたから、さっと胸の谷間を見せつけつつライターを取り出す。わざとの至近距離で顔を寄せて。煙草の火がつくまでのわずかな間。私は男の顔をじっくり見た。こちらに目もあわせない。色仕掛けにも乗って来ないなんて、随分遊び慣れた男なのね。     
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