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[第一部 吾が背] 序章 旅の終わり
明治10年、晩秋。
もうじき数えの2つを迎える子供を背負いながら、わたしは庭を掃いていた。
山口の家の離れを出て、この貸家に移り住むこと1年。
家賃の割に住みやすく、とても快適なのだけど、庭木が紅葉や桜ばかりだ。晩秋になると色とりどりの落ち葉に恵まれるが、落ち葉掃きが欠かせない。
(落ち葉や枯れ枝は、いずれこの子の良い玩具になるのだろうけれど)
と、背中の子がよちよち歩きを始める頃を想像して気持ちを慰めるのだが、落ち葉ばかりのがらんとした庭、そして暗雲がたちこめる寒々しい空の下では、溜息が零れる。このままではいけないと、気の晴れる方向に考えを持ってゆこうとするのだけど、その度に空しく失敗するのだった。
気持ちが晴れないのは、今に始まったことではない。憂いは9年前から、ずっと引きずっている。
それは恐らく、生きている限り纏わりつく類のものだ。まるで亡霊のように。
わたしは夫と3年前に結婚をした。
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