[第一部 吾が背] 序章 旅の終わり

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 それ以前から、思いは夫婦同然であったのだけれど、彼の側の意思で寺社に結婚を届けることがないまま、ずるずると来ていた。周囲はずいぶん気を揉んでいたけれど――あの、奇妙に冷酷な土方さんまでがもの言いたげな目で我々を眺めていたものだ――彼は頑として認めなかったし、わたしもそれに甘んじていた。  彼を夫と思い定めたのならば、その背を追い続ける事と、彼の意思に沿う事がわたしのすべきことである。  我々の間に嘘はなかったし、まるでしめ縄のように太くて強い絆が既に出来上がっていたので、わたしの中に、なんら不安はなかったのだ。  ……と言えば、嘘になる。  長年の間、彼の寡黙さと、目まぐるしい現実の動きに翻弄され、わたしはその都度、心が折れそうになった。  なぜ彼なのだろう、彼でなくてはいけないのだろう。  自問自答したこともある。  だが、どんなに絶望し涙を流し、怒り狂っても、彼はやはり戻ってきた。  いつでも、戻ってきた。  どんなに長い別離であろうとも、彼は必ず帰ってきたのである。  わたしこそ、彼の帰る場所。  (だから今回も、必ず戻ってくる)  肉体的なことだけではない。  あの屈強な痩せた体、それはどんなに傷ついても必ず戻ってくる。  でも、この9年の間に遠く離れた場所をさ迷い続けている彼の魂は。  今回の出征は、その魂を取り戻すためのものであるはずだ。  首を後ろに傾けて寝ている子を起こさないように気を付けながら、わたしは箒を使った。  山になってきた色とりどりの落ち葉。     
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