[第一部 吾が背] 序章 旅の終わり

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 火を起こす足しになるだろうから、あとで纏めておかなくては。  曇天の下で、わたしはあの瞳を思い出す。  澄んだ鋭さを失い、暗く閉ざされた寡黙な目。  毎夜、彼の瞳はわたしを見ているようで、ここにはないものを追い求めていた。  彼は、わたしの元に戻ったと見せかけて、ずっと、長い間、未だに帰っていなかった。心が帰らないまま、西南戦争の地、遠い鹿児島へ発った。  すっかり山になった落ち葉を眺め、しばしわたしは箒を休めて立ち尽くす。  山になった赤や黄色の落ち葉。  それは、あれを連想させる。  ……人々の纏う粗末な着物に染んだ赤、無造作に積み上げられた山。  城内に立ち込めた腐臭、その中で白旗を縫う女達。  がらり、と音がした。  はっとわたしは我に返り、箒を取り落とした。  運悪く、その瞬間に木枯らしが通り過ぎ、せっかく山にした落ち葉が派手に舞い上がったのだった。  赤、茶、黄の様々な形の葉が花弁のように宙を舞い遊び、わたしの目の前をよぎる。  箒を落としたまま、なすすべもなくわたしは茫然とする。  がらがら、と、立て付けの悪い玄関の扉が引き開けられる音が続いた。  誰かが来たらしい。  なんとなく胸が騒いで、箒をそのままに、わたしは縁側から家の中に入って玄関へ急いだ。     
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