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火を起こす足しになるだろうから、あとで纏めておかなくては。
曇天の下で、わたしはあの瞳を思い出す。
澄んだ鋭さを失い、暗く閉ざされた寡黙な目。
毎夜、彼の瞳はわたしを見ているようで、ここにはないものを追い求めていた。
彼は、わたしの元に戻ったと見せかけて、ずっと、長い間、未だに帰っていなかった。心が帰らないまま、西南戦争の地、遠い鹿児島へ発った。
すっかり山になった落ち葉を眺め、しばしわたしは箒を休めて立ち尽くす。
山になった赤や黄色の落ち葉。
それは、あれを連想させる。
……人々の纏う粗末な着物に染んだ赤、無造作に積み上げられた山。
城内に立ち込めた腐臭、その中で白旗を縫う女達。
がらり、と音がした。
はっとわたしは我に返り、箒を取り落とした。
運悪く、その瞬間に木枯らしが通り過ぎ、せっかく山にした落ち葉が派手に舞い上がったのだった。
赤、茶、黄の様々な形の葉が花弁のように宙を舞い遊び、わたしの目の前をよぎる。
箒を落としたまま、なすすべもなくわたしは茫然とする。
がらがら、と、立て付けの悪い玄関の扉が引き開けられる音が続いた。
誰かが来たらしい。
なんとなく胸が騒いで、箒をそのままに、わたしは縁側から家の中に入って玄関へ急いだ。
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