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暗く細い廊下の向こう側で、曇天から差し込むほの白い光が差している。
玄関の引き戸を開き、背の高い姿が黒い影となって見えた。
逆光である。
わたしは息を飲み、立ち止まりかけたが、すぐに思い直して猛然と駆け出した。
一刻も早く。
逆光となった軍服の人は片手を大きく広げた。
怪我を、している、腕に――。
わたしは裸足のまま玄関に飛び降り、その胸にすがりついた。
顔を見上げ、その瞳を確かめた。
そして、確信した。
「おかえりなさい」
戻ってきた。
9年の長い彷徨から。
否、本当はもっと以前、15年前に彼が江戸を追われた時から続いていた旅が。
今、終わった。
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