[第一部 吾が背] 序章 旅の終わり

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 暗く細い廊下の向こう側で、曇天から差し込むほの白い光が差している。  玄関の引き戸を開き、背の高い姿が黒い影となって見えた。  逆光である。  わたしは息を飲み、立ち止まりかけたが、すぐに思い直して猛然と駆け出した。  一刻も早く。  逆光となった軍服の人は片手を大きく広げた。  怪我を、している、腕に――。  わたしは裸足のまま玄関に飛び降り、その胸にすがりついた。  顔を見上げ、その瞳を確かめた。  そして、確信した。  「おかえりなさい」  戻ってきた。  9年の長い彷徨から。  否、本当はもっと以前、15年前に彼が江戸を追われた時から続いていた旅が。  今、終わった。
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