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「キミたちが先ほど教えてくれた鍛冶プログラムと同じ原理です。ただし、世界そのものの書き換えは不可能のようです。先ほどから試していますが、草原の雑草がなくなることがない。おそらくこの世界で決められたルールから逸脱する行為はできないのでしょう」
レイクスが紅茶を飲んで、椅子の背もたれに身体を預けた。
「正解。わたしは最初に拳銃を出そうとしたんだけど、出てこなかった。それはわたしが拳銃の構造を知らないだとか実際に持ったことがないことが原因じゃなくって、不思議の国にはないオーバーテクノロジーだったから」
数秒間思案する素振りを見せた後、ヤマネ氏が顔を上げた。
「では、行きましょうか。アリス・リデルのところへ」
ヤマネ氏がすくっと立ち上がり、曲がったネクタイを片手で戻す。
来たときとは違い、目がギラついている。眠らなくても栄養ドリンクを片手に二十四時間は戦えるサラリーマンの瞳だ。
レイクスがテーブルに肘を付いてヤマネ氏を眺めた。
「オジサンはアリス・リデルの居場所を知っているの?」
「キミたちが知ってるんじゃないんですか?」
「ぼくらはそれを尋ねに来たんだ」
三月兎は喋れない。
チェシャ猫が言うにはリデルの居場所を知っているらしいが、知っていてもぼくらに伝える手段はないだろう。
チェシャ猫に、言葉を話せるやつ限定と伝えなかったぼくらのミスだ。
「……はぁ~……」
途方に暮れて、ぼくらは揃ってテーブルに突っ伏した。
結局どんよりとした空気に呑まれてしまった。面倒だけど、もう一度森に戻ってチェシャ猫を捜すしかない。
そんなことを考えて頭を抱え込み、何度目かの疲れたため息をついたとき、突然ガバっと帽子屋テオフィルスがテーブルから身を起こした。
「リ、リデ、リデル……? さっき、アリス・リデルって言った?」
ぼくらはのろのろと赤毛のテオフィルスに視線を向けた。レイクスがテーブルから身を起こし、気怠そうに呟く。
「言ったわよ」
「そっか! 帽子屋テオフィルスもリデルの居場所を知ってるんだった!」
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