掛け布団

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まず違和感を覚えたのは、夫に対してだった。 私の体感では目を覚まして10分ほどしたところで、 夫が病室に現れた。 自分なりに大きな声で話しかけてみたが、反応はなかった。 これは想定内。小説なんかでもよくあることだ。 そこで、ふと、彼の頭部を見たとき思ったのだ。 あの人、あんなに白髪多かったかしら? 夫の雅彦さんは、顔は童顔の癖に、若白髪の多い人だ。身長が高いから、後頭部はもう気にしていなかったが、前髪に侵攻が始まったときには、抜く・切るなどの抵抗を試みていたものだ。 でも、言っても若白髪だ。そんなにはなかったはず。 なのに、私の記憶の3倍には増えていた。 しばらくすると、夫の携帯が震える音がした。 「ごめん、ちょっと出てくるね」 夫は時計を確認して、眠る私のずれた掛け布団をそっと直しながら声を掛けると、病室の外へと出ていた。恐らく時間で約束していた電話なのだろう。仕事柄、夫はよくそんなことがあった。 そんなことを落ち着いて考えられたのは、 夫の時計画面を見るともなしに覗き込んで、意味を理解するまでだった。 20××/7/30 17:35 私の最後の記憶から、3年の月日が経っていたのだ。
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