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数日後、受診した産婦人科で妊娠三か月と診断され、そして母子手帳の交付もされた。それを手に直属の上司である部長の元へと報告に行った。
「妊娠? そりゃ、おめでとう」
「ありがとうございます。あの、それで……」
「なんだよ、そんな神妙な顔して。嬉しくないのか?」
「いえ、嬉しいんですけど、その……また育児休暇を申請するのに業務に差し障りがあるんじゃないかと……」
「はぁ? おまえ、何いってんの」
「え?」
「随分と自分は偉いと思っているんだなぁ。早瀬ひとり抜けたところで業務が立ち行かなくなるほどうちの部は柔じゃないぞ」
「それはそうですけど」
「何を気に病んでいるのか知らんが、育てている部下の手前、いい見本としていてくれや」
「見本?」
「早瀬みたいに結婚しても子どもが出来てもうちの会社は長く働けるのだと下の連中に示してやってくれと言っている」
「……」
「他の企業がどうかは知らんがうちは女性社員が要だ。ひとりでも多くの優秀な女性社員を育て留めて置ける努力は続けている」
「……部長」
「という訳で、前の時同様無理しない程度に励むこと」
「──はい」
この瞬間、心の中の大半を占めていた憂いは取り払われ、心の底から今回の妊娠を喜べたのだった。
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