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母経由で来たお見合い相手は申し分のない人だった。
有名大学卒業、大手商社勤務の30歳。家のことをしっかりやってくれるなら仕事を続けてくださいと言ってくれる、私にとってはかなり条件のいい男性だった。おまけに顔も好みだった。
だから何が何でもこの人と結婚して恋も仕事も両方手に入れようと思った──の、だけれど……
(家のことって……家事、だよね?)
その点についてだけが不安要素だった。
「きゃあぁぁぁー! 末永さん、危ないっ」
「……へ?」
突然握っていた包丁を奪われてしまった。
「あなた、そんな包丁の持ち方をしていたら指を切り落としちゃうわよ!」
「そ、そうですか?」
「そうです! 包丁は止めましょう。このピーラーで皮を剥いて」
「……はい」
花嫁修業と称して料理教室に通い始めた。正直にいうと今までまともに料理をしたことがなかった。
小さい頃から結婚する気がなかったから料理なんてやって来なかった。それが今になって徒となり重く降りかかっていた。
(せめて……せめてサラダくらいは作れないと!)
野菜を切って器に盛るくらいは出来るだろうと、そこから始めようと意気込んでいたのだけれど──……
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