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「どうやって切ったらトマトが粉砕するんですか!」
「……さぁ?」
「このきゅうりは塩でも揉み込んだのですか?!」
「いえ、普通に切っただけなんですけど……なんだかやけにシワシワになってしまって……」
「末永さん」
「はい」
「出来ないにもほどがあります」
「?!」
【初心者でも絶対に出来るようになる!】──なんて触れ込みに惹かれ通い始めた早瀬登美子料理教室。
しかし通い始め初日にして登美子先生に呆れられてしまった。
「何よもう! 看板に偽りありでしょう!」
帰り際、思わず教室前に置かれていた看板を蹴飛ばしてしまった。ガンッと音を立てて倒れた看板を恨めし気に見つめた。
「……八つ当たりしてごめん」
何の罪もない看板に当たったことを反省しながら看板を元に戻そうと屈むと後ろから「器物破損の現行犯」と聞こえビクッと体が撓った。
恐る恐る振り返ると其処にはランドセルを背負った小学生の男の子が立っていた。
「弁償しろ」
「は? 弁償って……別に壊れていないわよ、看板」
「でも故意に蹴っていただろう」
「そ、それ、は……」
子どもの癖に容赦ない追及にたじろいでしまう。
「看板ひとつとっても母ちゃんの大事な財産なんだぞ」
「母ちゃん?」
「そうだ。ここは俺の母ちゃんの教室だ」
「ってことは君、登美子先生の息子さん?」
私の問い掛けに男の子はこくんと頷いた。
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