最期のメッセージ

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 立花しおり。  私は、ごく一般的な家庭に産まれた一人っ子だった。両親に大切に育てられ、小学校、中学校、高校と順調に進学。  楽しい経験も、つらい経験もたくさんあった。  中学校のころ、テニスの県大会で優勝したこと。ずっと憧れていた先輩と、付き合えたこと。高校生のころ、大怪我をして大好きだったテニスができなくなってしまったこと。  大好きだったおばあちゃんが亡くなってしまったこと。  優しかったおじいちゃんは、私がまだ小さかった頃に亡くなってしまって、あまり覚えていなかった。  おばあちゃんも本当に優しい人で、いつも私を可愛がってくれた。私は病室で両親と一緒におばあちゃんを看取りながら、おばあちゃんの手を取っていた。  ――あれ? このおばあちゃんって……  私の頭の中に、幸せそうに人生を語っていたあの横顔が浮かぶ。  ――人生ってのは、生きていたあなたが、死んだあなたに残したメッセージなんじゃないかしら。  大きく、心が打たれるのを感じた。  身体中をかけめぐった衝撃が、心の底から流れ出した感情が、目頭を熱くした。  溢れる雫を頬に感じながら、私は微笑んだ。  そっか。そうだったんだ。  どんなに時間が経ったって、あのおばあちゃんは、いつまでも。  死後の世界でさえも、私のことを優しさで包み込んでくれたんだ。  情景の中の私は、おばあちゃんの手を握って、ただただ泣いている。  だから私は今、発することのできない言葉を、心の中で必死に叫んだ。  ――ありがとう…………!  あの時に伝えられなかった、感謝の言葉。  すると刹那に、情景の中でおばあちゃんが。  かすかに、笑ってくれたような気がした――――
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