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死後の世界。
予想はしていたが、やはり聞いただけではまるで実感がわかない、その響き。
信じられるような、信じられないような。どちらとも言えない、複雑な心境に支配された。
確かに自分が死んでしまったことは、悲しいや寂しいといった言葉だけでは表現できない。
だがそれとは反対に、死んでしまったという実感がいまいち私の中に無いのである。
自分が何も知らないところで、何でもないことが終わったかのような。
自分に大いに関わっているはずなのに、まるで自分とは無関係のような。そんな思いだった。
「大丈夫ですか……?」
気が付くと、彼が心配そうな目を私に向けていた。
「何か……いまいちよく分からないです」
私が困ったような笑顔を見せると、それにつられたのか、彼も苦笑した。
「そうですよね……皆さんそうおっしゃられます」
ぽっかりと自分の中に大きな何かが空いたような、複雑な心境だった。
しかし、この膨大な虚無感の原因には何となく察しがついている。
それは。
私が私のことを何も覚えていないから。
私が、私のことを何も知らないから。
生きていた証や、歩んできた世界。それらを知らないからだ。
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