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「……私はこれから、どうすればいいのでしょうか」
私がここに来たということには何らかの理由があるはず。
彼は、その質問を待っていたかのように頷く。
「はい。これから申し上げることを実行するかどうかは、あなた次第ですが……」
そう言って一息おくと、こう続けた。
「ここにある数多くの書物の中に一冊だけ、あなたの人生を綴ったものがあります。それを見つけることができれば、あなたは生前の記憶、つまり自分の人生を知ることができます。しかし、書物の数は膨大です。探し出すまでにどれほどの時間がかかるかは、見当もつきませんが」
真剣にその話を聞く私を、彼はより真剣な目つきで見つめて、言った。
「もしその本を見つけることができれば、あなたはあなたのすべてを知ることができます」
そう告げられた私は、自然と周囲を見回していた。
どこまで続いているのか分からないほど広大な空間。いや、むしろここには終わりなんてないのかもしれない。
数えきれないほどの書物が、みなそれぞれが探し求めている人生の本が、その持ち主を待ちながら、ここに静かに眠っている。
この中から、たった一冊だけ。
「それに、あなた自身の手で見つけなければ、それは意味を成しません。その人生を歩んできた本人だけが、その人生を知ることを許されるんです」
自分だけしか知ることのできない、自分の人生。
それを綴った本が、この中に。
「……どういたしますか?」
黙って、彼の話を聞いていた。
私が、どちらを選択するのか。その決断を見届けるべく、彼はじっと私を見つめている。
探すのに、いったいどれほどの時間がかかるのかは分からない。
でも。
私のことを私自身が知らないなんて。
そんなの、寂しすぎる。
「探します」
私は、彼の双眸をしっかりと見返した。
「私が誰なのか。私がなぜ死んだのか。それを知る義務が、私にはあると思いますから」
真っ直ぐな言葉だ。自分でもそう思った。
どちらの答えを予想していたのだろう。私の顔をしっかりと見ていた彼は、優しい眼差しで頷いてくれた。
私の決断を、肯定してくれているような。応援してくれているような、暖かい笑みだった。
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