最期のメッセージ

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 それから、私は私の人生に出会うため、たった一冊の本を探し始めた。  普通に手にするような自己啓発本や、小説。そしてその中にちらほらと紛れている、背表紙に何も書かれていない本。  おそらくこれが、違う人の人生を綴った本なのだろう。きっとこの本の背表紙や表紙に書かれている文字は、この人生を知る権利を持つその人にしか見えないのだ。  いつか私も、私にしか見えない文字を刻んだ、他人から見れば空白の本をこの手で見つけ出さねばならない。  しばらく探し続けていると、徐々に疲れが身体を蝕んでくる。私は休憩スペースに移動した。  この世界では空腹やのどの渇き、暑さや寒さの感知などといった生理現象は身体には起きない。  その理由はもちろん死んでいるからであるが、それでも疲労を感じるのは、疲労が身体的な面だけでなく、精神的な面にも影響しているからだとか。  大きく息をついた。  背もたれに身を預け、高い天井を見上げる。  それと同時に私は脳裏で、先ほど起こったある出来事を思い返していた。
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