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橘内武の変わり果てた姿が発見されたのは、翌朝の七時過ぎだった。息子がいつものように食堂に姿を見せないので、遅刻を心配した母親が部屋を開けたのだ。
「こら、学校でしょ!遅刻する・・・」
少し甲高い声はすぐに消えた。
息子が両耳から大量出血して仰向けになっていたのだ。物凄い異臭がした。
「武! 武!」
母親は息子を抱き起そうとして、この世のもとは思えぬ悲鳴を上げた。
赤茶色のヤスデが、武の鼻の穴から這い出してきたのだ。
それも一匹だけではなく、何匹も。
母親の異様な叫び声は、階下で出勤の支度をしていた父親にも聞こえた。
「どうした!?」
スーツ姿の父親が階段を駆けあがってきた。
「わああ、なんだこりゃ!救急車、呼べえ!」
両親は半狂乱になって、息子の名前を呼び続けた。
武の顔は青黒く膨れ上がり、激しく苦悶したあとが見てとれた。瞳孔はくわっと見ひらいたままだ。
揺すっても、息子は動かない。
ほどなくして、橘内家の周囲は物々しい雰囲気になった。
何台もの警察車両や救急車で狭い路地が渋滞し、黄色い規制線が張られ、鑑識や防毒マスクを着用したエキスパートたちが動きまわった。
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