図書館

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 1  T市中央図書館の閉館時間は20時30分。  緑ヶ丘高校の近所にも分館はあるが、そこの閉館時間は17時だ。蔵書数も本館の方が圧倒的に多い。  そのかわり中央図書館まではバスに乗らなければならなかった。  15分程揺られて、到着した。  図書館の建物はバス停の目の前だからありがたい。  白と紫のパンジーのプランターが玄関前にならんでいた。  麻衣は中に入った。  2層建ての内部は広く、目的の本棚はすぐには見つからなかった。  天井から吊り下がった案内プレートを頼りに、通路を歩きまわった。  T市の昭和中期の地図帳が見つかったときは、思わず拳を握りしめた。  <T市緑ヶ丘町史料一覧>  <国土地理院監修 T市地形図>  これだ。  しかしそれはカバーだけで、必要な方はカウンターまでお越し下さいとある。史料は書庫に保管されているからだった。  そのほかに、 <郷土史 写真図解入り 昭和初期編、中期編、後期編>の三冊を書棚から取り出した。  あと欲しい物は新聞の縮刷版だ。  直近の平成版は書棚に並んでいたが、(それより古い縮刷版は書庫保管のあります)と、但し書きが貼ってあった。  麻衣は逸る気持ちを抑えて、カウンターへ急いだ。  平日の夕方とあって、館内はがらがらに空いていた。ヒマそうな男の担当者がすぐに手続きをしてくれた。  しばらく待たされて、セピア色の冊子がカウンターテーブルに置かれた。 「特定史料なので館外貸出はしていません。この中でしか閲覧できませんので・・・」  担当者は申し訳なそうに頭を下げた。 「縮刷版はデータベース検索が便利で速いですよ。閲覧室の奥に視聴覚ブースがありますから。パソコンでオンラインになっているので、キーワードを打ち込めば検索できます」  若い担当者はわざわざカウンターの外まで出てきて、麻衣を案内してくれた。 「どうも」  麻衣は軽く会釈をして、パソコンデスクに座った。 「何かあるのですか」  よほど暇なのか、担当者が背後からのぞきこんだ。 「はあ?」  麻衣は思わず振り向いた。 「いえね、午前中にも、T市緑ヶ丘町の郷土史料とT市の地図、新聞の縮刷版を閲覧した方がいらっしゃったので」 「え?」麻衣は耳を疑った。誰だろう。「どんな人でした?」 「どんな人って、普通のお客様ですよ」 「男ですか、女ですか」
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