図書館

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 麻衣はT市の1960年作成の地図帳を捲った。  ゴミ捨て山一帯は白地図のように何の記載もなかった。  ただ一本の道があるのみ。距離にして三百メートルくらいだろうか。  そこに現在の地図を重ねた。  緑ヶ丘高校、コンビニエンスストア、新しくできたバス通り。  それらは、ゴミ捨て山の敷地内にすっぽり収まってしまった。 (だけどこれって、清島さんが話してくれた内容と全然違うじゃん)  縮刷版記事には<母子家庭>と書いてある。麻衣の目線はその文字に釘づけになった。  清島栄一と会った時のことを思いだしたのだ。  父親は自殺、母親は男と駆け落ちしたと。  残された幼子を引き取って、面倒を見た親類のおばさんがいた。  事実なら母子家庭とういう表現は間違っている。  遠い昔のできごとだし、清島さんも幼かったから記憶が混乱していたのかもしれない。  現況の清島宅の所在地と重ねると、かつてのゴミ捨て山と隣接していることがわかった。  清島さんは、他に何かを知っているのだろうか。  そもそも、あの家を訪問した目的は、「武藤君の転落事故」のことを調べるためだった。それが、おかしな方向にむかっている。  橘内武が死に、飯郷先生も大怪我を負った。  あたしも心霊体験をしている。  大場君は大丈夫だろうか。  得体のしれない底なし沼に、どっぷりと浸かっている気がしてならない。もがけばもがくほど、足首をつかまれて、ひずりこまれそうな感覚。  麻衣は顔を上げた。  清島さんにもう一度会う必要がありそうだ。  麻衣は地図帳とパソコンを閉じた。館内の壁時計はまもなく5時半になろうとしていた。  窓の外は暮れかかっている。  え? なに・・・  ブォー、ブォー・・・  スマホの着信バイブレーションだ。  麻衣ははっと身を固くした。  電源は落としたままなのに、どうして?  それはスクールリュックの中で震動を続けている。  サイドポケットからスマートホンを抜いた。  画面全体が灰色に光り、昨晩と同様にアイコンは消えている。  タップすると画面がゆらゆら動いた。  また投稿動画だ。  カフェ「プラタナス」の白い扉と大きな窓がアップされている。カメラワークが店内に移り、客席を一つずつ覗き込んではフェードインとフェードアウトを繰り返した。  ボックス席のカップルが映った。  え、ウソでしょ!?    
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