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花期になれば、君は美しい花を咲かせる。
それが君の精一杯のおめかしだ。
しかし、僕はまだその姿を見たことはない。いつか、見せてもらえたらと思う。
こうやって二人並んで歩いていて、君は何も言わないけれど、僕はとても満たされる気分になる。
ずっと歩いていると、君の歩調がだんだんとゆっくりになっているのに気付いた。
僕は君に、手を繋ぐよう促した。
君は躊躇った。
なにしろ、君の手にはトゲがたくさん生えているのだ。
僕の方には躊躇いは無かった。
君が立ち止り、どうしたものかと困っている間に、僕は君の左手をぐっと掴んだ。
君の左手を掴んだ僕の右手からは、眩しいくらいの赤色が流れた。
キラキラ光る白い砂の光を、僕の右手は反射している。
ポタポタと白い砂の上に、僕の赤い雫がいくつか落ちていった。
痛くは無かった。
いや、まったく痛くないのかと聞かれれば嘘になる。
しかし、君の感じる痛みに比べれば、僕の痛みなど小さなものだ。
僕の顔は、少しばかりその痛みに歪んでいただろう。
それでも、それは耐えられる痛みだった。
僕は君の手を離さなかった。
僕は君の左手を握ったまま、再び歩き始めた。
ゆっくり、ゆっくり歩いた。
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