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父親が厳しい人で半強制的に守り人になったものの、彼が勇敢に“妖”と戦っている姿を想太は見たことがなかった。
「はりゃ!?」
そう雷蔵が変な声を上げるときは、決まっている。
彼の肩に止まっていた百舌が慌てて飛び立ち、どこかへ逃げてしまった。
彼が後ずさりするのに対して、想太は刀の柄を持って一歩前に出る。
二人から十メートルほど離れた先、木の下に何か蹲っていた。
それの足元には死んだ鹿の死体があり、それを何かが貪っているようであった。
「ひ、久々の魔物ですな」
そう小声で言った雷蔵の声は、震えていた。
彼は怖がりのくせに想太よりも先に"妖"に気がつき、変な声を上げるのである。
「逃げてもいいぞ」
想太が小声で言うと、雷蔵は申し訳なさそうな顔をする。
「あんたがいると、戦いの邪魔なんだ」
きっぱりと言うと、彼は唇を噛み締めて山を駆け下りて行った。
守人として、男として、情けないもんだと想太は思った。
長い手足も高い背も、きっと鍛え上げればいくらでも強くなる。
(宝の持ち腐れとは、ああいうのを言うのかもしれないな)
そんなことを考えながら、ゆっくりと近づいていく。
想太との距離は、五メートルほどになる。
大きく一歩踏み出した瞬間、足元にあった小枝を踏み折ってしまったらしい“パキッ”という小さな音がしてそれは振り返った。
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