第一章

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一見して、浅黒い肌をした老爺(ろうや)のようであった。 白目の部分が充血したように真っ赤で、大きな口からは鹿の血が滴らせており骨と皮のようにやせ細っていながらも、下腹部は丸々と膨らんでいた。 そこまでしか想太は判別できなかったが、それでも“妖”であると核心していたので一気に間合いを詰めて刀を振り下ろした。 “妖”は断末魔を上げることなく頭から股まで切り下ろされ、赤黒い血と内臓をぶち撒きながらその場に倒れた。 着物に返り血を浴びた彼は、少し不愉快そうに刀に付いた血を払って鞘に納めると懐から何枚かの札を取り出す。 それを“妖”の血で穢れた場所の四方に置き、手近なところにある石や枝で飛ばないように重しを乗せた。 穢れた神域を浄化するのは、宮司と巫女の役割である。 そうして札を置くことにより、穢れた場所を正確に宮司に伝えることが出来るのだ。 「申し訳ない」 不意に声がして振り返ると、雷蔵が何故か土下座をしていた。 「な、何だよ」 想太が困惑していると、彼は顔を上げ泣きそうな顔で彼を見つめる。 「申し訳ない」 そして、もう一度頭を深々と下げた。 「別に、気にしてないし」 想太はそういって足早に雷蔵の横を通り抜けたので、彼は慌てて立ち上がり後を追う。     
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