ある朝の散歩

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 いつもならフンッと勢いよく言うところだが、タマゴを暖めるのに忙しくて、今は食べ物を取りに行けない。  グリンはありがたくもらっておくことにした。  グリンは家の前に置かれた食べ物を、タマゴから生まれるはずの何かが食べる分だけ取っておいて、残りはニッキと二人で食べた。  いよいよタマゴの(から)にピシリとヒビが入った。  グリンは毛の下からタマゴを出して、ふかふかの葉っぱのクッションの上に置いた。  グリンとニッキはタマゴを挟んで向かい合って、うつぶせに寝転んでタマゴをじっと見守った。ニッキもこの時ばかりはジッとしていた。  パリパリパリ。  タマゴにヒビが入った。  いつの間にか、森の動物達が窓から家の中をのぞいていた。  コツ、コツ。  「あら! くちばしの音よ!」  鳥たちが一斉に喜びの声をあげた。  黄色いくちばし。その次に……、灰色の……。ボサボサの……頭?  ザワザワとざわめいていた動物達は、ピタリとおしゃべりをやめた。  タマゴの(から)の上半分が持ち上がった。  ヒョコッと顔を出したのは、灰色のかたまり。羽はグシャグシャで、細くて長い目の回りは黒い。くちばしは妙に大きい。  ハッキリ言ってかわいくない。  鳥たちは顔を見合わせると、何も言わずに飛び去った。他の動物達は鳥を笑った後に、そそくさと帰って行った。  「ちぇっ。食べ物なんか、あげるんじゃなかった。どんなにきれいな生き物が生まれるかと思ったのに」  動物達はグリンの家から離れると、口々に文句を言い合った。  ニッキはそんなことはおかまいなしに、飛び上がるとクルクルと回りだした。  「やったあ! 生まれた!」  ニッキはヒヨコの回りをクルクル回って、ズンタタズンタ、と喜びの踊りを踊った。  ヒヨコは首をかしげて、細くて長い目でグリンとニッキをかわるがわる見た。
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