第十章 大きな迷子 五

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 誰かの為に産まれ、そして死んでゆく人生など、無意味な気がする。でも、反面、俺は今度こそ新悟を守る為に、生まれ変われと言われたら、承諾してしまう。  新悟は、死保に来ているということは、死んでしまっているということだろう。俺は、新悟に生きていて欲しい。 「春樹はどう思っているのだろうね……」  兄貴を犠牲にしてまでも、自分は生きるべきだと思っているようならば、影代わりなど廃止したほうがいい。人の命の重さに、差などあってはいけないのだ。 「まず、橘保険事務所に帰って、時任君と合流、新悟君と一ノ瀬君を呼んで、状況を聞こう」  甲斐も呼んでいるのだが、織田と一緒に仕事をしているらしい。 「甲斐君は、既に新悟君から連絡を受けて、病院に潜入している」  甲斐は医師で、織田がカウンセラーとして潜入しているらしい。二人は本職でもあるのだが、妙な気がしてくる。 「甲斐君の持論も尤もでね、病院は、本来は不安でたまらない場所なので、カウンセリングが常備行われていてもいいと言っていた」  患者としての心構えを、学ぶ場が少ないという。 「病気と闘うのか、共存するのかで、だいぶ心構えが違ってくるよね」
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