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またか……。ゲイルは、大きくため息を吐いた。今日もゲイルの前に人間が転がり落ちてきた。
うんざりしながら、部下を呼ぼうとしたときだった。ゲイルの目にあるものが飛び込んでくる。
燃える炎のような紅。その人間は、炎のごとき髪をまとっていた。
……聞いたことがある。人間の中に、炎を自在に操れる一族がいると。
数百年前の神との闘いの最後、神が残した予言。――炎は悪の王の身を焦がすであろう――。ケツの穴の小さいことに、魔王はその予言を恐れていた。
つい最近行われた魔族幹部の会議で、その炎の一族を滅ぼそうということになったらしい。幹部の一人を脅して聞き出した会議の内容では、じきにその計画が実行されるという話だった。
ゲイルはゆっくりと、転げ落ちてきて気を失っている人間に近づく。
……間違いない。確か、炎の一族と呼ばれる人間の特徴は、髪の毛が炎のように紅いということだったはずだ。
転げ落ちてきた人間は、少年のようだ。しかし、魔王が恐れるあの一族の人間ならば、少年でも戦力になるかもしれない。成長著しい少年ならば、自分が鍛えることで立派な戦士へと成長を遂げる可能性もある。
これは、思わぬ幸運を拾った。クソみたいな役目を押し付けられて、腐ること百年以上。それが報われる瞬間がやってきたようだ。ゲイルの顔が不気味に歪む。
少年の側へと近づくと、ひざまずく。ゲイルは、少年の胸へと手を乗せる。
「小僧、お前の力を俺によこせ!」
ゲイルが渦巻く風へと姿を変える。まるで小さな竜巻だ。その風は倒れている少年を覆いつくすと、少年の体へと吸い込まれるように消えていく。
バーンの体がドクンと大きく波打つ。
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁ!」
突然、バーンが苦しみの声を上げた。それは一瞬だったが、彼の全身を貫く痛みが走った証拠だった。
主を失った部屋に静寂が訪れた。
バーンは激しい痛みにより、再び気を失った。額を、全身をあぶら汗がつたうが、それを拭うこともできずに流れるままだ。
その部屋の静寂が破られるのは、それからしばらく時間が経過してからのことだった。
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