力の英雄

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「いいかい、地下迷宮の最下層にまで到達できる人間は、数少ない。中でも、ヴィゴ・バトルロードは最初に最下層に到達した人間なんだよ。筋骨隆々の大男で全身黒ずくめの防具を身に纏い、自分の身の丈以上の長さの、そして分厚い鉄の塊のような大剣を振るう。その大剣で、力任せにモンスターをなぎ倒すんだ」  女将さんの講義は続く。 「もちろん、それだけじゃあない。地下迷宮で手に入れた財宝や武器防具、モンスターから剥ぎ取った素材などでピルゴスの街の発展にも貢献してきた。それで、ピルゴスの住人は彼のことを、敬意を込めて『力の英雄』と呼ぶのさ」 「……なるほど。でも、なんでそんな人が僕なんかを助けてくれたんです?」  バーンが疑問を口にする。 「それはね……、迷宮の最下層にあんたが倒れていたらしいんだよ!その場を通りかかったヴィゴ・バトルロードがあんたを見つけてくれて、まだ息があるし、身なりからあまり冒険の経験がなさそうだと、街まで連れて帰ってくれたんだ!そして、冒険者ならどこかの宿屋に泊まっているだろうと、この街の宿屋という宿屋を駆けずり回ってくれて、うちにたどり着いたと言うわけさ」 「それで、その人は今どこに?」 「いやだねぇ、もうとっくに行っちゃったよ!今頃は、地下迷宮のどこかだろうさ。……あぁ、あんな有名人がうちに泊まってくれたらねぇ」  女将さんは言いながらバーンの肩を叩く。 「さぁ、三日も寝ていたんだ。おなか空いただろう?……まだ、お粥みたいなものがいいだろうね。すぐに用意するよ!」  いそいそと、部屋から女将さんが出て行く。  ――力の英雄、ヴィゴ・バトルロードか。とんでもない人に助けられてしまった。  しかし、別の言い方をすれば、いい目標ができたかもしれない。必ず自分の力でヴィゴ・バトルロードに直接助けてもらったお礼をしなくては。  地下迷宮で活躍できれば、名前を売ることができる。それがわかったのも一つの収穫だ。バーンは決意を新たに、明日からの冒険を頑張ろうと気合を入れ直す。  そんなバーンの心に使命ともいえる目的が追加されるのは、すぐのことだった。
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