胸騒ぎ

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胸騒ぎ

 その日、バーンは朝から暇を持て余していた。  地下迷宮での冒険に出かけたかったのだが、「三日も寝続けた後なのだから、無理をするな」と女将さんに説得され、断念を余儀なくされた。  さて、今日はどうして過ごそう。また、ピルゴスを散策しようか、それともどこかで剣の修行でもしようかと考えながら歩き出したときだった。  背後で、何かが爆発するような音が聞こえた。  バーンが振り返ると、再び、同様の音が耳に飛び込んできた。  遥か遠くに煙が立ち上っている。  突如、バーンの体を貫いたのは、胸騒ぎだった。  あれは……、ヴィラージュの方角だ。自分の生まれ育った村、ヴィラージュで何か不吉なことが起こっている。  バーンが頭でそう判断するよりも早く、バーンの体は街の外へ向けて走り出していた。  その間にも、爆発音は続いていた。次々に黒煙が立ち上る。  いったい何が起きているのだろう?ただ事ではない事態であることは、明白だった。バーンが村に住んでいたときには、こんなことはなかったからだ。  渾身の力を振り絞り走るバーンの脳裏に、村の人々の顔が浮かび上がる。  両親、友人、隣近所の人たちに村長。小さい村だ。ほとんどの人間が顔見知りだった。  彼らに何かあったらと思うと、胸がキリキリと痛んだ。  それだけ、バーンにとって村の人々は大きな存在だ。なにせ、ほんの数日前までは、その村がバーンの世界だったのだ。今のバーンを構成している全てといっても過言ではない。  街の出口に着く頃には、バーンの息は完全に上がっていた。しかし、気にしている余裕はなかった。今は心臓が張り裂けても構いはしない。  そのまま、街を出ようとしたバーンの視界の片隅に、茶色の何かが飛び込んできた。  バーンは足を空回りさせ地面を滑りながら、ほとんど倒れこむようにストップすると、それに向かって方向を変えた。  それは、馬だった。  街の出入り口には、貸し馬屋があり、街の外を旅する者を手助けしてくれるのだ。……残念ながら、ヴィラージュのような小さな村には存在していなかったが。 「おじさん、後で必ず返します!」  馬に水をあげていた男の背中に、一方的にそう声をかけると、バーンは手ごろな馬の背中に飛び乗った。
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