ヴィラージュ

1/4
前へ
/19ページ
次へ

ヴィラージュ

 バーンの故郷は、ひどい有様だった。  このヴィラージュは、優しい木漏れ日のような、ゆったりとした時間の流れる、小さいが平和を絵に描いたような村だった。  それが、今や見るも無残な姿へと変わっていた。全ての家が崩れ落ち、黒煙を上げている。そこいらで人が倒れていて、そのほとんどが黒焦げで、シルエットで恐らく人であったと判断が付くような状態だった。  村のシンボルの一年中聖なる炎が灯る聖火台も倒され、聖火は姿を消していた。  小さな村だ。ほとんどの村人が顔見知りだった。家族――とまでは言わないものの、全員が親戚のようなものだ。その誰かが、地面に倒れて、燻っている。黒焦げで、誰なのか判別することすらできない状態だった。  何者かが、意図的に村を攻撃したに違いない。こんな小さな村を襲う理由は不明だが。  息を切らしている馬から滑り降りると、バーンは立ち尽くした。もう、馬のことなど視界に入っていなかった。 「いったい、誰がこんなことを……」  思わずバーンの口をついたのは、それだけだった。次に発する言葉が見つからない。  焼け落ちた家たちの中に、自分の家を見つけてしまったからだ。  両親は無事なのだろうか。思わず、バーンは自分の家へと駆け寄った。  バーンの家も無残に焼け崩れ、黒煙を上げるだけになっていた。両親は、家の中にいたのだろうか。  焼けて、いまだ熱を持っている瓦礫をバーンは退かし始めた。ひょっとしたら、まだ両親が瓦礫の下で生きているという、淡い期待を胸に抱きながら。その手は、熱さなど全く感じなかった。  燻る瓦礫を退かし始めてすぐに、二人の遺体が目に入った。それは、先ほど村の入口で見た誰かと同じように黒焦げで、どちらが父でどちらが母かすぐに判断がつかない様な状態であった。  それを見ても、バーンは瓦礫を退かす作業を止めることはできなかった。それを止めてしまったら、両親の死を受け入れなくてはならない。そう思えたからだ。  その時、バーンの背後で人の声が聞こえた……ような気がした。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加