ヴィラージュ

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 誰か、生き残っているかもしれない。バーンが振り返ると、村の中央にある村長の家の側に、倒れている老人がいた。  その背中は焼け爛れていて、今も炎が揺らめいていた。黒い炎のようなものが。 「……村長!」  バーンが駆け寄ったその老人こそが、このヴィラージュの村長だった。  当然、バーンのことも生まれたときから知っていた。 「イーグニスのところの……バーンか」  村長は、体から搾り出すように声を吐き出した。その声は非常に弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。 「今すぐ、背中の火を消しますからね!」  バーンは、近場の井戸へ走り、水を汲んで戻ってきた。 「……無駄じゃ。闇の炎は、それが燃え尽きるまで、決して消えはしない」 「そんなこと……」  バーンは、村長の背中に水をかける。水は、一瞬にして蒸発し、黒い炎は何事もなかったかのように揺れている。  手で叩けば――、バーンがそう考えて黒い炎に手を伸ばそうとした。 「触るな!……触れれば、お主にも燃え移るぞ」  村長は、そう一喝すると、やっとのことで体を反転させて、仰向けになった。黒い炎は、地面と背中に圧迫されても、燃えることを止めようとはしない。 「……バーン、バーンや。そんなことよりもお主と話をさせてくれ。わしは、もう長くはないからのう」  村長は、まるで赤子をあやすような声でバーンに語りかける。 「でも……」 「この闇の炎は、燃え尽きるまで消えない。もう手遅れなのじゃ。今は、わしの魔力で進行を押さえ込んでいるがのう。魔力が尽きれば、わしも燃え尽きてしまうだろう。いいか、バーンよく聞くのじゃ」  村長の言葉に、バーンは無言でうなずく。その目には涙が溜まっていた。 「バーンや、我が村の人間がなんと呼ばれているか覚えておるかのう?」 「炎の民です」  村長は、それにゆっくりとうなずく。 「そうじゃ。我が村の人間は、炎を操れる力を持つ。お主も成人の儀で、炎を操ったじゃろう?」  バーンは、それに苦笑いで返す。  この村では、炎を自在に操って、一人前とみなされる。それの試験のようなものが、成人の儀だ。  ただ、バーンはまぐれで炎を操れた。まだ、自由自在とはいかないのだ。正直、あまり自信がない。まぐれとはいえ、一応、炎を操れたので、村から出ることは許されたのだが。
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