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そこは、生まれ故郷の村、ヴィラージュとは全く違っていた。ヴィラージュと比べて、圧倒的に住宅、商店などの建物が多い。
正直なところ、バーンはヴィラージュから出たことがなかったため、都会に来ること自体が初めてだ。
ヴィラージュでは、数えるぐらいの建物しか存在しなかった。ところが、ピルゴスでは建物が所狭しと並んでいた。
子どものように駆け出したくなる気持ちを必死で押さえ込む。しかし、若干早足になっていることにバーンは気付いていない。
街は人で溢れ、まるで祭りのようだ。いや、ヴィラージュの祭りよりも賑やかだ。
商店も様々だ。いったいどんな商品が売っているのだろうか。おそらくヴィラージュとは、商品の品揃えも違うだろう。片っ端からまわってみたい。
きょろきょろと周りを見回しながら通りを歩いてると、ふいにバーンに声をかける者があった。
「おや、見ない顔だねぇ。ずいぶん若いけど、冒険者かい?」
それは、宿屋の女将だった。
小太りのどこから見ても人の良さそうな印象を受ける。この人が切り盛りする宿屋なら、おそらく繁盛していることだろう。
「ええ、そうです。さっき、この街に着いたばかりで」
バーンがそう答えると、女将の目が輝く。
「それなら、まだ宿屋は決まってないね?うちにしときな。サービスするよ!」
どうやら、そうとうな商売上手らしい。バーンには、特に断る理由もない。
「うちから、天魔の塔の地下迷宮に潜ってる冒険者は何人もいるからね。そこいらの宿屋よりは、冒険者の扱いには慣れてるよ!さぁ、うちに決まり!」
バーンが返事をするまもなく、女将がまくし立てる。そのまま、バーンの荷物をひったくると、宿屋の中へと消えていく。
慌ててバーンも女将の後を追った。
バーンにあてがわれた部屋は、一人で寝泊りするには十分な広さであった。豪華ではないが、取り立てて質素というわけでもない。ベッドや机は、年季が入って入るものの、しっかり手入れが行き届いている。家具にまで女将の人柄が表れているようだった。
すぐにでも地下迷宮へと向かいたかったが、女将により、それは中止となった。
長旅で疲れがたまっているだろうし、地下迷宮は逃げないからと半ば強引に納得させられた。
仕方なく、バーンはその日一日、街を見てまわることにした。
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