第一章 消える

1/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

第一章 消える

 その日、煌太は朝から双子の弟を探していた。日課のジョギングをしようと布団からでると、いつも寝ているはずの弟が布団にいなかった。朝が弱くギリギリまで動かない弟が部屋にもいない。トイレにもリビングにもキッチンにも、家の中に全く気配がない。珍しいことがあるもんだと、首をかしげつつ走りに出かけた。どうせ朝ごはんの時間にはリビングにあつまるのだ。  いつものコースを走り終わり、シャワーを浴びる。着替えを済ませリビングに移動すると、コーヒーをすする父と、カウンター越しにキッチンで動く母がいた。おはよう、と声を掛けるとそれぞれからおはようと帰ってくる。しかし、そこにはいつもある弟の声が含まれていない。 「あれ、今日」 「朝ごはんの用意できてるわよ。冷めないうちに食べちゃってー。」  弟について尋ねる前に母に遮られた。とりあえず食卓を見ると、自分の席の前に湯気の立つホカホカのご飯と味噌汁、焼き魚、それから目玉焼きという、ザ・朝ごはんが並べられていた。今にもなりそうな腹をおさえて席に座りながら隣の弟の席をみると飲み物すらない。いただきます、と軽く手を合わせたあと、箸を動かしながら口を開く。     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!