第一章 消える

3/8
前へ
/9ページ
次へ
◆◆◆  ひとしきり会話が終わりリビングをあとにした煌太は、フラフラとした足取りで自分の部屋に戻るとそのまま布団に突っ伏した。自分自身の半分を失ったような、奇妙な喪失感に囚われ激しい脱力感に襲われた。体の向きを変えることすらめんどくさく、少し首を動かし気道を確保して目を閉じた。  あのあと母の声に顔をあげると、困惑と心配の入り混じった表情の両親の顔が彼の目に入った。その顔に嘘はなく、先程母が言ったことが二人にとって事実だと告げてることだけはわかった。でも、じゃあ、と、部屋に2つづつある制服や布団、机、しまってあるランドセルなどについて尋ねたが、いろいろな理由をつけて『すべて彼のもの』とされていた。その後、本気で弟の存在を信じる彼に対して、大丈夫、どうしたの、という心配する声から病院に行くかという提案までもあった気がするが、これ以上弟について否定されることが怖くなった彼は笑ってごまかし、最後に体調がすぐれないから今日は休む旨を伝えて部屋に返ってきたのだ。  考えれば考える程意味がわからなかった。先程まで疑うことのなかった存在が実は両親も知らなくて、あったはずの記憶は思い出そうとすればするほどおぼろげになっていく。だが、弟は確かにここにいた。それは彼の妄想でも何でもなくて、実際に昨日まで一緒に生活していたのだ。考えてもわからないし記憶も消えかけている、だが、それでも彼の中で、弟は絶対に存在するという、直感というより確信に近い感覚があった。  俺が探さなければという思いを胸にひとつ寝返りをうった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加