第一章 消える

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 しばらくそのままベンチに座り、ときたま通る通行人や家や店に出入りする人々をぼーっと眺めていた。手を繋ぎ商店街方面に向かって楽しそうに歩く親子、豆腐屋の前で立ち話をしている女性二人、鍵のようなものを片手に自宅玄関からでてきた男性、買い物袋を下げて居酒屋の勝手口に入る年配の女性、カゴに大きく膨らんだ買い物袋を載せ自転車で駆け抜けていく中年女性、自宅に併設された車庫にたどり着いた先程の男性、ママ!と大きな声を上げて振り返り嬉しそうに母を呼ぶ少女、先を行く娘に手を振って応える母親、車庫のシャッターを開ける先程の男性・・・。  何気なく視界に入った車庫の中の様子に煌太は愕然とした。車庫だと思っていたシャッターの内側には車などなく、そのかわりにいろいろなゲームが並べられた棚が陳列してあった。いつの間にか男性が外においた立て看板には『ゲームショップ ゴート』という文字とリアルな山羊の絵が描かれていた。 「みつけた・・・!」 ◆◆◆  ゲームショップ山羊の中に入ると、もとがガレージなだけに照明が届きにくいのか少し薄暗い印象を受けた。お店としては多少狭いが最近発売されたものから、なかなかお目にかかれないような据え置き機初期のものまでおいてあり、そこまで詳しくない煌太ですら眼の前の光景に少し興奮を覚えた。  目についた懐かしいソフトを手にとって眺めていると、先程この店を開けた男性が人の気配に気づいて店の奥から出てきた。 「おや、いらっしゃいー。」
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