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私は店の扉を開け、家へと帰ろうとした。
しかし、店を出て右へ曲がろうとしたら何かに衝突してしまい、鞄が手から落ちてしまった。
「すみません、前見てなくて...。」
そこには、同じ学校の制服を着た少年がいた。
「いいえ。俺も前、きちんと見てなかったので。」
彼も私の制服をみて同じ学校の生徒だと思ったのだろう。彼の目を見ればわかる。
だが、そんなことより私の頭には彼に私がこの書店にいることを、見られてしまったという事実が浮かび上がった。学校という集団の中の1人である彼に私がこんな書店に通っているということを知られたら、私は普通の女子高生としていられなくなる。
だから、とっさに私はこう言ってしまった。
「こんな脆い書店、今時めずらしいよねえ。まじ、興味本位で入ったけど本当、笑っちゃう。」
彼の顔を見れず、私は話を続けようとした。
「あ、てか同じ高校だね。私、三年B組の宇月です。君、何年生?」
あれ、何も返事が返って来ない。
私はふと彼の顔を見た。
その瞬間、私の全身が停止した。
彼は涙を流しているのだ。
彼の頬にある汗と混じって。
私は心の中で一言だけ呟いた。
「夏、来たる。」
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