奏殊

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奏殊

彼はずっと私を見つめる。 まっすぐな瞳で。私の心の中、真の文の姿、全てが彼にお見通しのようだ。 「ど、どうしたの?てか、急に先輩に声かけられたら怖いよね。ごめんごめん。」 そんなんじゃない。彼はそんなことで涙を流しているんじゃない。 彼はやっと口を開いた。 「一年C組、中島そうたです。」 そして、彼は俯いた。 どうしたのだろう。疑問と驚きの繰り返しだ。 だが、彼は俯いてからすぐ顔をあげ、こう言った。 「そうですよねえ、こんな本屋今時、珍しいですよね。てっきり、先輩、こういう本屋さん好きかと思いました。」 そして、彼は私に笑顔を向けた。なんて、爽やかなんだ。夏を感じさせない彼の笑顔は私に感動を与えてくれた。 だが、そんなことを考える間も無く、私は彼にこう返事した。 「うん、そんなの好きなわけじゃないでしょ。」
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