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1惨め
別にこんな自分を惨めなんて思ったことはない。
宇月は放課後、いつもの友人達とカラオケと向かう。
「宇月!今日は何歌う~?あ!ってか、今日、遠野達も途中から来るから、メイクばっちりにしないとね!」
遠野達というのは隣のクラスにいる少し調子に乗ってる男子達のことを指す。私の友達の明美は遠野という人を少し前から狙っている。だから、私は今日明美の付き添いみたいなものだ。私は明美の友人Aでいい。明美は実際明るくて、クラスのムードメーカーだ。そんな彼女の隣にいられるだけ、有り難いことだ。
だから、別に私は自分に特別なんか求めていない。普通でいいんだ。
友人Aでいいんだ。
私はカラオケの帰りにはいつも寄る店があった。
『蓬生書店』
主に日本の古典作品を中心に販売している書店だ。店の構えは少し脆いが、逆に良い味をだしている。人の出入りは少ないが私のような常連客はちらほらといる。
「ちいちゃん、いらっしゃい。」
「うん。」
店主は何年もこの店を通ってる私をいつも優しく迎えてくれる。私を下の名前で呼ぶのも彼くらいだ。
「式部日記の2巻ください。」
「はいよ、これね。いつもありがとうね。」
私は、新品の本を鞄の奥底にいれ、帰路を急いで行く。
この書店を出たら、私はちいちゃんではなく、宇月となる。
古典作品が好む自分は宇月ではない。
私のダサい名前、チトセのように古臭い古典作品に焦がれる私はダサいのだ。
私はスマフォを開き、明美からの恋愛相談にのった。私はまた、友人Aとなる。
別にこんな自分を惨めなんて思ったことない。
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