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「歩いて」
ほとんど犯罪者を連行するような感じで、私はオゴエを追い立てていった。
オゴエ。本名大越雪人。あだ名の由来は、成績も素行も悪くて、入団して三ヶ月で二軍落ちしたプロ野球選手に由来しているそうだ。私はよく知らないが顔が似ているらしい。好意的なニュアンスはない。もうわかると思うが、オゴエはいじめの対象だ。
無口で無表情で何を考えているか分からなくて、家が貧乏でいつもなんだか薄汚くて、ちかづくと臭い。その上、暇さえあれば「紙ピアノ」を夢中になって演奏するだなんて奇行をする。いじめられても仕方がないと思う。でも、オゴエ――雪人はそれだけの少年ではない。皆は知らない、知ろうともしない。知っているのはきっと、この中学で私だけだ。
「これといった外傷はないけれど、ちょっと心配だな。午後の授業は休んで、ここで横になっていたほうがいいと思う。もし何か違和感があったらすぐに、違和感がなくても後で、病院で見てもらったほうがいい。担任の先生には僕から話しておくよ」
保健室の先生はオゴエにそう言った。そして私に、
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