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「君、保健委員だよね。悪いけど僕はこれから会議に出なきゃならないんだ。念のため、彼に付き添っていてくれないか。先生には僕から言っておくから」と言った。
そんなわけで私は五時間目を、オゴエと二人きりで過ごすことになったのだった。
「戻っていいぜ。変な噂が立つと嫌だろう」
ベッドの上で天井を見つめたまま、無気力な感じの声でオゴエが言う。
「何よそれ」
「皆に、俺のこと心配してるとか思われたら、お前嫌だろ」
図星だったから言葉を返せなかった。しばらく沈黙が続いた。
「馬鹿なマネ、止めればいいのよ」
「馬鹿なマネってなんだよ」
「ピアノ」
「俺からピアノとったら何も残らない」
「ピアノじゃないじゃない。ただの紙じゃない」
「鍵盤を叩けば俺には頭の中で音が聞こえるんだ。俺にとっては、これはピアノだ」
「そんなの、皆にはわからない。馬鹿にされてるの、わからないの?」
「皆がどう思うかなんて、俺には関係ない」
「そんなだからいじめられるのよ」
オゴエ――雪人は鼻で笑った。あんな奴らにどう思われようと何をされようと、どうでもいい、というように。
考えてみれば、彼は昔からそうだったかもしれない。誰とでも平等に仲良く、というタイプではなかった。ただ、あの頃は彼は身ぎれいで、明るくて、彼自身が黙っていても、周りに人があつまっていた。
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